loser's howling for tomorrow

ネタバレ注意。小説、漫画、アニメ、ゲーム、音楽、お笑いのことなんかを書き殴っています

「自分を構成する9枚」とかって自己顕示欲と承認欲求丸出しでちょっと苦笑いしながら視線をそらしちゃうよね、の巻。

今年一発目は何を書こうかずいぶん悩みました。漫画や小説も色々読んだし新しく知った音楽もある、前期アニメの不作っぷりや今期アニメの意外な豊作なんかについても書きたいことはあるのですが、何か最近流行ってるらしい「わたしを構成する9枚」を作ろうと思ってCD棚や音楽フォルダを漁っているうちに9枚ぐらいで済むわけがないという当たり前の事実に直面し、急遽とにかく好きなアルバムを紹介するだけというお茶を濁すような記事に相成りましたが、これがなんとも難産で、無茶苦茶時間がかかってしまいました。
だいぶ時間をドブに捨てたような気もしますが、自分でも忘れてるようなクソ懐かしい名盤を掘り出したりしたので、結果オーライということにしておきたい所存。

 ※一つ一つを何日かにわけてランダムに書いているので統一感のない文章になっていますが、その日のテンションとか色々でこんなことになりました。まあお察し下さい。
まあ始めましょう。まずはこれ。



METAL MOON

METAL MOON

中期ブランキー・ジェット・シティーの最初の一枚であり、永遠のマスターピース。(どこからが中期かは諸説あるかと思うけど、自分は『METAL MOON』から『SKUNK』までを中期として捉えている)
椎名林檎が「無人島に一枚だけもっていくCD」としてこのアルバムを挙げたことがあるが、自分も、まったく同感とは言えないけど同じくらいに思い入れのあるアルバム。
アートワーク、曲、歌詞、エンジニアリングなど、一枚のCDを構成する全ての要素が完璧な奇跡の作品。ミニアルバムでありながら、この後のキャリアでこれをこえるアルバムを出すことができないままブランキーは解散してしまった。そこもまたブランキーらしい未完成さというか不完全さを感じさせてくれる。
ジャジーなイントロから爆裂ロックンロールへの展開がドラマチックな1曲目『おまえが欲しい』、軽快さと重いグルーヴをさらっと両立させた2曲目『Sweet Milk Shake』、打って変わって叙情的な3曲目『ORANGE』、乾ききった情景をエモーショナルに歌い上げる4曲目『脱落』、どれも名曲だが、「ずっと続く海岸線」を「綺麗な首飾り」にたとえて「この世界を君にあげる」と歌われる5曲目『綺麗な首飾り』と、続く6曲目『鉄の月』の乾いた絶望に似た詩情はロックの歴史に残されるべきだと思う。



未完成

未完成

2013年に惜しくも亡くなられた吉村秀樹氏率いる伝説のスリーピースバンド、ブラッドサースティー・ブッチャーズの、これまたとんでもない名盤。
一般的にブッチャーズの名盤として語られることが多いのは'96年リリースの『Kocorono』の方だけど、自分がリアルタイムで最初に聴いたアルバムということでこっちを挙げておきます。
これのリリパあたりからライブにも何度も何度も足を運んだものです。ライブを観た回数が多いのはブランキー・ジェット・シティーが一番だけど、二番目はブッチャーズで、この2バンドは例外的にアホほど何回もライブに行きました。この当時めきめきと頭角を現していたナンバーガールイースタンユースといったバンドとのジョイントライブなんかも足を運んだのを覚えています。ナンバガイースタン目当ての客は暴れまくって鬱陶しいので、坊主憎けりゃ、ってやつで当時はその二つのバンドが大嫌いだったのも今となってはいい思い出です(笑)
これまた名曲揃いなんですが、個人的には6曲目『プールサイド』がダントツに好きです。メランコリーという感情をそのまま音楽に落とし込んだかのような大名曲。ナンバーガールがカバーしていましたが、悪くはない出来だけどオリジナルにはとうてい適わない。夏といえばこの曲でしょう。



千と千尋の神隠し サウンドトラック

千と千尋の神隠し サウンドトラック

これを読んでくれてるような方は僕がオタクであることをご存じだと思いますので、こんな流れをぶった切るような紹介の仕方も許して頂けるでしょう。たぶん。
アニメ映画『千と千尋の神隠し』のサウンドトラック。作曲はもちろん久石譲
先の二枚のアルバムとは認知度も段違いで、たとえば主題歌である『いつも何度でも』なんて、知らない人の方が少ないぐらいでしょう。なんでわざわざこんなメジャーなの挙げるのかと思われるかもしれませんが、それは僕がこの映画をただただ大好きだからという、それだけの理由です。
宮崎駿監督作品のサントラはもれなく大好きなんですが、ナウシカでもラピュタでもトトロでもなくこれを選んだのは、『千と千尋の神隠し』という映画が、まず現代的なな日常を下敷きにしてそこからファンタジーの世界へ入り込むことによって、日常とファンタジーの境目をはっきりと描いていて、そのせいでサントラの楽曲(音色とかも含めて)に異常なまでのノスタルジーを感じさせてくれるというのが大きいです。
トトロにもそういった詩情は感じられますが、あっちはもっとコミカルで楽しくて、わけがわからないんですよね。久石譲の楽曲はわかりやすいキャッチーさの部分が凄いと思うので、この一枚を選んだ次第。
導入であり主旋律として何度も繰り返されるメロディーをもった『あの夏へ』と、クライマックスへと至る溜めのように静かに紡がれる『6番目の駅』がお気に入りです。



灰羽連盟 サウンドトラック ハネノネ

灰羽連盟 サウンドトラック ハネノネ

僕が一番好きなイラストレーター、漫画家である安倍吉俊先生原案のアニメ『灰羽連盟』のサントラです。またアニメかよ!すいません。
いつでもどこでも言い散らかしているのでご存じの方もいるかもしれませんが、僕がすべてのアニメの中で一番好きなのが『灰羽連盟』です。キャラクターデザイン、動画、作画演出、キャスティング、音響など、僕がアニメに求めるもの全部が最高のレベルであり、たぶんこれをこえるアニメはこれからも出てこないでしょう。それくらい好きな作品です。
そしてそんな素晴らしい作品を、目立たず引っ込みすぎず支えるのが大谷幸さん作曲のこの劇判。
1話アヴァンで印象的に鳴らされる『Reflain Of Memory』や、牧歌的でありながらドラマティックな展開が素晴らしいOP曲の『Free Bird』、抽象的な作品のテーマを深く掘り下げた歌詞が印象的なED曲『Blue Flow』など、全曲聴き所満載なのですが、やっぱり最終曲『Ailes Grises』が一番好きです。イントロのサティーを思わせる無機質で乾燥したピアノの旋律が徐々に色を帯び始め、叙情的な主旋律に入る部分は、何度聴いても涙腺が緩みます。
ちなみにこのサントラCDは単体では廃盤になっており、中古以外で手に入れる方法はブルーレイBOX特典しかありません。そんなアホな!名盤やぞ!



ICO~霧の中の旋律~

ICO~霧の中の旋律~

灰羽連盟』が一番好きなアニメだということはすでに述べましたが、では一番好きなゲームは?と問われるなら何の迷いもなく自分はこれを挙げます。
ICO』が世界で一番素晴らしいゲームであると断言します。自分は今までこのゲームをおそらく100回以上クリアしていますが、未だに飽きていません。一度プレイし始めると夢中になってエンディングまで駆け抜けてしまって時間がかかるのでプレイしてないだけで、いまこの瞬間からプレイし始めたとしても一瞬で作品世界に引き込まれ、気づいたらエンディングの感動的な楽曲をぼろぼろ泣きながら聴いていることでしょう。さすがに仮にも定職を持っているいま、そんな無茶をすると仕事に響くのが怖いのでやっていませんが、もし何かあってまた無職に返り咲くことがあれば、まず最初にこのゲームを2周するでしょう。2周目は1周目で隠されてた伏線が少し回収されたり、隠し要素がたくさんあったりして無闇に楽しいんです。
そんなもの凄いゲームですが、サントラの方は正直かなり地味です。上に挙げた2作品と比べると退屈と言ってしまっても過言ではない。
しかし、単に楽曲の地味さや退屈さで劇判としての出来が左右されるわけではないのが、アニメやゲームのサントラの面白さです。
ICO』というゲームは…うーん、簡単には説明できない世界観を持った作品なのですが、とにかく音の隙間が多い作りになっていて、主人公を操作せずに立ちっぱなしにさせていると、おそらくフィールドレコーディングされたであろうやたら臨場感のある、風が廃墟の建物を吹き抜ける音が、静かに静かに聞こえるだけだったりします。
そもそも4分半あるED曲を入れても全部で25分ほどのサントラですから、ゲーム中ほとんど音楽が鳴ってない、鳴っているときも1分ほどのミニマルな曲をずっとループしてるだけだったりなんですが、これを以て手抜きと言う人間がもしいたら「わかってねえ!」と説教します。
作品世界に流れるゆったりとした空気を、現代音楽やポストロック、ミニマルミュージックを通過した楽曲でひっそりと支え、そしてクライマックスでは先述の歌入りED曲『ICO -You Were There-』でそれまでの静謐さを覆し、淡々としながらも切ないメロディーで一気にプレイヤーの涙腺に襲いかかる。恐るべきやり口です。
楽曲の質だけなら『灰羽連盟』の方が勝っているでしょうが、サントラアルバムとしてのトータリティーでは『ICO』の圧勝だと思っています。


 ※『ICO』には制作チームのほとんどを同じくする『ワンダと巨像』という続編というか世界観を共有するゲームがあるのですが、そちらの劇判を手がけているのがこの記事でも取り上げた『灰羽連盟』の大谷幸さんです。(『ICO』の方は大島ミチルさん)
 『ICO』と『灰羽連盟』に何か説明しがたい共通点を感じてしまっている僕にはこれが偶然とは思えません。
 なにかしらのスタッフの思い入れにより、『ICO』の続編の劇判は『灰羽連盟』の大谷幸さんに決められたのだと勝手に信じています。



タンタン・テラピー

タンタン・テラピー

一気に知名度の低いアルバムですが、実はこれの1曲目『バイババビンバ』は「ろうきん」のTVCMソングとして起用されたことがあるので、テニスコーツというグループは知らなくても、もしかしたらどこかで聴いたことがあると感じるかもしれません。
テニスコーツは、常に特異な立ち位置を選び続けていることで知られる、二人組のグループです。ヴォーカリストさやとギタリスト植野隆司のみのデュオですが、テニスコーツ単体名義としてリリースする音源は20年近くというキャリアの長さの割りに少なく、2016年現在でたった4枚のフルアルバムしか出していません(そのうち2枚はPt.1、Pt2に分かれる実質上1つのアルバム)。しかし国内外の様々なアーティストとのコラボによってリリースされた音源は20枚を越える。そのことだけでもテニスコーツの特異さを少しはわかって頂けると思います。
ただ、こういうことをやっている人たちに特有の、アルバム個々の出来不出来がかなり激しいという一面も持っており、正直言ってアルバムとして特に高い評価を彼らに対してつけていません。しかしこのアルバム、スウェーデンのバンドTapeとのコラボによって作り出された『タンタンテラピー』と、あとテニスコーツ名義ではありませんが、2007年に亡くなったDJ KLOCKとのユニットCACOYによる『Human Is Music』というアルバム、この2枚だけは格別の思い入れがあります。アルバムとしてのトータルな出来は正直CACOYの作品の方が上だと思っていますが、この『タンタンテラピー』にはそんなことを覆して余りある超弩級の名曲が収録されているのです。
テニスコーツをある程度ご存じの方はすぐに思い当たるでしょう。2曲目に収録されている『嗚咽と歓喜の名乗り歌』です。シンプルなピアノのイントロに歌が乗り、美しいアコースティックギターアルペジオが紡ぎ出され、そしておそらくはTapeによる有機的でメランコリックなノイズが重なり、楽曲は次第に熱を帯びていきます。とはいえ楽曲全体を見渡せば、極端なダイナミクスがあるわけでもなく、一聴するだけでは静かで起伏の乏しい曲と思われるかもしれません。
この曲を特別たらしめているのは歌詞です。歌詞の内容を分析するなんて事は無粋だと思うので細かな言及は避けますが、これは本当に凄い歌詞です。自分もバンドをやっていた頃は歌詞を書き、最近になって始めたラップミュージックではリリックも書いていますが、たとえ今から生きていくことの他に何もせず歌詞を書き続けたとしてもこの曲の歌詞を越えることはできないでしょう。自信過剰なところのある自分がこんなことを認めるのは滅多にないことです。
世界で一番美しい歌詞をもつ楽曲が収録されているというだけで、『タンタンテラピー』は本当に特別なアルバムです。
死ぬまで聴き続け、機会があればライブにも足を運び、そしてできることなら僕が死んだとき、葬儀の場でこのアルバムが鳴っていて欲しいと思います。



To Everybody

To Everybody

このバンド90 Day Menも、結成されてから20年近く経ちますが、寡作にも程があるだろうというリリースの少なさ。フルアルバムはたった3枚。しかも各アルバムの収録曲は多くても8曲。EPや何かも含めても、40曲ほどしか持ち曲がありません。ライブには行ったことがないのでライブでしか演奏しない曲なんかも存在するのかもしれませんが、そもそも日本語のwikiが存在しないような日本ではかなりマイナーなバンドなので、情報自体がほとんど入ってきません。
僕がこのバンドを知ったきっかけは、うろ覚えではありますが、たしか雑誌「COOKIE SCENE」のディスクレビューだったと記憶しています。まずジャケットの格好良さに一目惚れし、レビューでもべた褒めされていたことから、次の日にレコ屋巡りをして購入しました。巡るって言っても、タワレコHMVで探しても見つからなくて、ダメ元で立ち寄ったタイムボムであっさり見つけちゃったんですが。あの頃のタイムボムはポストロック系メジャーマイナー関わらず充実していたので、最初にタイムボムに行っておけば簡単に見つけられてたはずなのに!…という後悔はしませんでした。買えたことが嬉しすぎて、普段なら他にもCDを物色して5,6枚は買って帰るコースだったんですが、一刻も早くこのアルバム『To Everybody』を聴きたくて急いで帰宅したことを覚えています。
帰宅するなりプレイヤーにCDをぶち込んで聴き始め、1曲目『I've Got Designs On You』のイントロが耳に入ってくると「あれ、ちょっと期待してたのと違うかも…」というガッカリ感が僕を襲いました。このバンドにはボーカルを担当するメンバーが二人いるのですが、その内の1人、Robert Loweの歌声が粘りのある高音で、極端に言えばちょっと生理的に受け付けない感じだったのです。
あいたー、外したかー、と思いながら1曲目を聴いていると、途中からやたらと渋い低音のハードボイルドな歌が聞こえてきて、おおっ!と身を乗り出しました。もう一人のヴォーカリストBrian Caseの、ボソボソとした語りのようでいながら美しいメロディーを奏でるスタイルに、僕は完全にやられてしまったのです。
そして2曲目の『last night, a dj save my life 』、ブライアンが終始リードボーカルを務めるこの美しい曲で完全にノックアウトされ、一発でこのバンドの虜になりました。買える音源はすべて手に入れ、かなり待たされての3rdアルバム『Panda Park』は予約して買いました。これの先行シングル『Too Late Or Too Dead』がこれまた凄まじい名曲で、このアルバムも期待は大きかったんですが、シングル以外の曲がいまいち期待はずれで、今のところ僕にとってのこのバンドの最高傑作は『To Everybody』一択です。ちなみにロバート・ロウの声も今では味があって悪くないと思うようになりました。
ギター、ベース、ドラム、ピアノ、という簡素な構成でありながら、ポスト・ハードコアの影響が伺えるかなり複雑怪奇なアンサンブルを奏でるサウンドは、けっして万人受けはしないでしょうが、今も自分の好きなロックバンドベスト10には必ず食い込む、大好きな大好きなバンドです。一時解散説が流れたときはかなり落ち込みましたが、どうやらバンドは今も続いているようです。10年以上リリースがありませんが、いつか物凄い名盤をひっさげて帰ってくることを期待しています。


 ※と思いきやどうやら本当に解散した説もあるようで、真相は藪の中です。メンバーのソロプロジェクトも全然情報が入ってこない…



THE LAST ROMANCE

THE LAST ROMANCE

Arab Strapというバンドは、たとえば先ほど挙げた90 DAY MENに比べると知名度はかなり高い(Vo.のエイダンがロッキングオンでコラム書いてたりしたし)が、名前を知っていても、彼らがどんな音楽をやっているのか知らない人はかなり多いと思う。少しは音楽を知っている音楽スノッブでも、「あの地味でチープな雰囲気バンドでしょ。ベルセバのおかげでちょっと売れてよかったね」ぐらいにしか思われていない。たしかにTeenage Fun Club、Bell & Sebastian、MOGWAIといった同郷グラスゴーのバンドと比較すると、見た目汚いしやってること暗くて地味だし、リリカルといえばリリカルでハードボイルドだけど、見ようによってはただ延々と愚痴をこぼしてるだけのような歌詞の内容も、ほとんどの人にとってはマイナスイメージにしかならないだろう。
だがそれがどうした。俺は自分を負け犬と名乗るぐらいだから、こういうひねくれて地味で暗いバンドには必要以上に感情移入してしまうのだ。リリース当時少し話題になっていた1stアルバムを聴いて、これは自分の音楽だと感じた。自意識とルサンチマンとナルシズムとをこじらせるだけこじらせ、それでも自らの思う「美しい音楽」からだけは目を反らすことができなかった男が創り出した新しい音楽。先にやられてしまった、とすら感じた。悔しかった。長いこと音楽活動を行っていなかった自分がラップミュージックを始める切っ掛けになった1つの要因にもなった。(ちなみにシュタインズ・ゲートをモチーフにした自分のラップ曲は、このバンドのメンバーのソロアルバムの一曲をサンプリングして作ったトラックが基になっている)
それだけ思い入れがあるバンドではあるが、では特に思い入れの強いアルバムを1枚挙げろ、と言われると、実は少し困ってしまう。シンプルにも程がある安っぽい打ち込みのビート(1stアルバムは生音っぽいドラムだったがクソシンプルなことに変わりはない)に、センスは感じるがこれまたシンプルきわまりないギター、シンセなどのウワモノ、いっそポエトリーリーディングと言ってしまったほうが近い(というか初期は本当にポエトリーそのものだった。徐々に歌っぽくなったので気づきにくいが、改めて初期の音源を聴き直すとメロディーなどほぼ歌っていない)ように思えすらする起伏のない歌。スタジオアルバムは、程度の差はあれど、ほとんどそういう作品ばかりだ。アルバムごとに少しずつ進化はしていたのだが、その進化に驚き賞賛していたのは本当に一部のファンだけだったと思う。
しかしライブアルバムは違う。緊張感溢れる生音の演奏(スキル水準も純粋に高い)によるクリーントーンと爆音のダイナミクスが凄まじいその音塊は、所謂ポストロックと呼ばれるジャンルが好きな音楽ファンなら垂涎ものだろう。歌は相変わらずボソボソとあるのかないのかギリギリぐらいのメロディーでしかないが、演奏とのギャップによってそれすらも味として昇華してしまっている。
というわけなのでアラブ・ストラップで1枚というなら初期のライブアルバム『Mad For Sadness』を挙げようかと思ったのだが、今回のブログで紹介するアルバムはできるだけライブアルバムとベスト盤は避けたかった。
ので、彼らのラストアルバムにしてレコーディングに初めて豪華な生演奏を用いたアルバム『Last Romance』を紹介させて頂く運びとなった。おそらく一番売れたデビューシングル『First Big Weekend』もバンドを代表する名曲『Shy Retirer』も、個人的に大好きな『Cherubs』や『Fucking Little Bustard』も収録されていないが、生ドラムをフィーチャーした最も普通のロックバンドっぽいアルバムである。おそらく彼らはスタジオアルバムとライブとのギャップに自分たちも疑問を抱いていたのだろう。1つのアイデンティティーとして認知されていた打ち込みドラムに象徴される地味さ、それだけでいいのかと。例え不評であろうとも、生の自分たちを切り取ったアルバムを最後に作っておかねばならないのではないのかと。そんな葛藤があったのだろう。どうやら制作前に次を最後のアルバムにして解散するという目論見があったようなので、そんな思いも格別に強かったのではないか。
というのは自分の妄想にすぎないものではあるが、ある程度的を射ているのではないかと思っている。これまでのイメージを一新させるかのような「普通のロックバンド」らしい演奏、アレンジ、今までになくメロディーを歌うボーカル。ドラマティックな曲展開、そして明るさ。
「らしさ」という意味では全アルバム中最もアラブ・ストラップらしくない。実際に自分もレコ屋でこのアルバムを試聴したときには少なからず落胆した。日和ったな、とすら思ってしまった。それまでのアルバムはすべてリリース直後に購入していたが、このアルバムだけは3ヶ月ほどためらった挙げ句タワレコの貯めてあったポイントで購入したほどだった。そして義理のように何回かアルバムを通して聴いているうちに、バンドの解散が発表された。そのときやっとこのアルバムの音の意図、タイトルの意味に気づいて僕は泣いた。熱烈なファンを自称していながら彼らの最後の覚悟を汲み取ってやれなかったことが悲しかった。
それから繰り返し繰り返しこのアルバムを聴き込み、今ではスタジオアルバム中でもっとも好きな作品である。キャッチーとすら言えてしまう1曲目『Stink』、前述の代表曲『Shy Retirer』のアップデート版といった趣の『Speed Date』、そしてホーンセクションを取り入れた最後のお祭り的な狂騒感を感じさせるラスト・トラック『There Is No Ending』が聴き所ではあるが、はっきり言って捨て曲無し、全部名曲。大好きなバンドのラストアルバムだから大いにひいき目はあるだろうが、そこは大目に見て頂きたい。
僕はそれだけアラブ・ストラップを愛していたのだ。


といったところで長くなりすぎたので後編に続きます。
いつになるかは未定ですが…