loser's howling for tomorrow

ネタバレ注意。小説、漫画、アニメ、ゲーム、音楽、お笑いのことなんかを書き殴っています

Breed

よほどのことがない限り、今年のNO.1読書体験はこれで決定でしょう。つい最近友人に勧められて読んだ「子供はわかってあげない
も無茶苦茶よかったのですが、このインパクトは越えられません。
そう、あの漫画の待望の第二巻!


施川ユウキバーナード嬢曰く。」2

「本を開くたび閉じるたび
 私は世界から世界へ移動する
 時間も天気も関係ない
 すごいことだ
 異世界から戻ったあと
 私はときどき高ぶって
 そのまま走り出したくなる」


読書家に見られたくて仕方ない少女、町田さわ子(自称バーナード嬢)は、今日も今日とて未読の本を既読であるかのようにみせかけることにのみ心を砕くのでした。
ただそれだけの漫画です。それだけなのにこんなにも面白いのは、ひとえに施川先生の本への愛ゆえなのでしょう。アシモフ、クラーク、ハインラインブラッドベリティプトリー、ディック、シモンズ、ヴォネガット、コーニィ、イーガン、ピンチョン、ホーガン、チャン、レム、ウェルズ、オーウェル、バラード、マッカーシー、パラニューク、まだまだあるけどひとまず海外SF作家をちょこっと挙げるだけでこの量。ミステリや純文学はSFに比べるとあまり登場しませんが、それでも三大奇書プルースト、ガルシアマルケスといった難解どころまで押さえてあるところから鑑みるに、相当の量読んでらっしゃるようです。
普通こういうのをやるとひけらかしっぷりが嫌味に見えてしまうものなのですが(似たような傾向の漫画「今日のハヤカワさん」ですら少し鼻につく部分がありました。大好きな漫画なんですが)、文字通り等身大の主人公、町田さわ子のアホの子っぷりがあるだけでこんなに親しみやすくなるんですね。キャラクタ造形ってのはこうあるべきだと力説してしまいたくなります。さわ子の友人、SF好きの神林さんやシャーロキアンの長谷川さん、そしてさわ子に想いを寄せる(?)遠藤君といった脇役のキャラも存分に立っていて、普通にキャラクタものとしても楽しめるかと思います。
さすがに登場する書名、作家名をまったく知らない人には楽しめないかも知れませんが、そんな日本人多分ほとんど居ないでしょう。漱石、太宰、宮沢賢治ぐらいなら教科書で名前見たことあるなーというレベルでも(たぶん)十分面白い。
そしてもちろん知っていれば知っているほど面白い。SF好きがディックに対して抱いてしまう「なんか特別」感とか、太宰を語る著名人に対する妙な上から目線とか、村上春樹に対してどういうスタンスを取るべきか問題とか。読書家と読書家を気取っている人々にとって究極のあるあるパターンなんじゃないでしょうか。
かくいう自分も今作に登場する作品の半分も読んでいない(叙述トリック)のですが、1巻から通して読んで37回ぐらい爆笑しました。


※上で紹介した一文は長谷川さんが雨宿りしながら伊藤計劃×円城塔の「屍者の帝国」を読むシーンで独白する台詞です。作風に見合わない本への愛に溢れた言葉ですが、「ネタ」という形で照れ隠しばかりしている施川先生の本音が漏れてしまっているみたいで、僕が一番好きなシーンです。